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歌舞伎衣装①「女方」~赤姫・武家女~
歌舞伎には、演目によって様々な役柄が登場します。彼らが身にまとう豪華で煌びやかな衣装は、色・文様などで、演じる役のキャラクター性を見事に表現していました。
今回は、舞台の綺麗どころ「女方」のうち、「赤姫」役と「武家女」役の衣装をご紹介します。
赤姫【あかひめ】
歌舞伎に登場する「姫」は、“世間知らずで純粋無垢な深窓のお姫様”というキャラクターでよく描かれます。特に、恋愛に関しては非常に積極的な行動をとることが多く、時には清楚で可憐に、またある時には盲目で情熱的に・・・燃え盛る恋心に身を焦がす様は、まさに歌舞伎の花といえる役柄でしょう。また、姫役はたいてい赤色地の衣装を着用していることから、「赤姫」と称されることもあります。
「白地楓樹に梅菊散し文様 繍 切付 着付」(神道博物館所蔵)
これは、「白地楓樹に梅菊散し文様 繍 切付 着付【しろじふうじゅにうめきくちらしもんよう ぬいとり きりつけ きつけ】」です。白地に楓の枝散しを繍にし、大小の楓を切付【きりつけ】で添え、特に裾の部分には多く重ね、さらに梅菊を配して一種の吹寄せ文様としています。切付とは模様を施す手法のひとつで、主となる布地の上に、文様などを別の裂で形作り周囲を縫いとめる方法です。
衣装としては元来一般婦人用小袖であったものに手が加えられ、見栄えを重視した舞台衣装として工夫されています。一般小袖としては、楓葉のみずみずしさの表現に装飾技法を随所に用いる繊細さを感じさせます。
<参考文献>
下中弘編『歌舞伎事典』(平凡社、昭和58年)
歌舞伎入門シリーズ③『役者と役柄』(別冊演劇界 演劇出版社、平成14年)
歌舞伎入門シリーズ⑤『歌舞伎用語事典』(別冊演劇界 演劇出版社、平成17年)
『伊勢の歌舞伎と千束屋-神都に伝わる伊勢人のこゝろ-』(皇學館大学佐川記念神道博物館、平成20年)
「紅地梅樹霞文様 繍 切付 打掛」(神道博物館所蔵)
こちらは、「紅地梅樹霞文様 繍 切付 打掛【くれないじばいじゅかすみもんよう ぬいとり きりつけ うちかけ】」です。金糸に色糸繍で、見事な花文様が描かれています。打掛【うちかけ】とは、帯を締めた上から着用する衣裳で、主に姫や御殿女中などの役に用いられます。また、「傾国の美女」役として知られる傾城役【けいせいやく】には、分厚い刺繍や細工を施す豪華なものが多いです。
この打掛に描かれている梅の老大樹は、生命樹として大地にしっかり根を張り、今を盛りと花を咲かせています。霞にたなびくのどかな春の情景は、未だ地獄を垣間見たことのない姫君の、純粋無垢な生き様を表現しています。
「緋地桜樹霞文様 繍 打掛」(神道博物館所蔵)
こちらは、「緋地桜樹霞文様 繍 打掛【ひじおうじゅかすみもんよう ぬいとり うちかけ】」です。さめるような緋色に桜の大樹と霞を金糸で刺繍した豪華絢爛な振袖衣裳です。文様が上下で切れているため、着付けとして使用されたものかもしれません。地色に赤を使うことは少女の若々しい情熱の表現であり、登場により舞台は一瞬華やいで見えます。
繍【ぬいとり】とは、布地に様々な色糸を用いて文様などを縫い表したものをいいます。
武家女(ぶけおんな)
次にご紹介する衣裳は、時代物の武家婦人役が着用したと思われるものです。
豪華絢爛な刺繍が施されている「赤姫」とは対照的に、清楚で繊細さを感じさせる作りとなっています。
「白地下藤文様 繍 着付」(神道博物館所蔵)
こちらは、「白地下藤文様 繍 着付【しろじさがりふじもんよう ぬいとり きつけ】」です。白の地色前面に、赤や紫色の下り藤と藤棚とを配しています。文様はすべて刺繍による繍が施されています。蔓には金糸を贅沢に用い、この間に葉を配するなど繍技は荒いですが、細やかで優美な雰囲気は十分表現されています。
時代物の武家婦人役の衣装として用いられたものと思われます。武家婦人の華やかでありかつ清楚な趣がよく表現されています。